宇佐神宮の比売大神の正体

   私が考える不弥国比定域に製鉄所の遺跡はないようである(近代では、北九州市は製鉄都市であるが・・)。それでは、鉄はどのようにして入手したのであろうか? 『魏志』東夷伝弁辰条は記す「國出鐵 韓濊倭皆從取之」(国には鉄が出る。韓人、濊人、倭人はこれをほしいままに取る)。これは、邪馬台国の時代、倭人が弁辰(加羅の領域?あるいは弁韓と辰韓)に住み、鉄鉱石を採って、製鉄をしていたことを示す。勿論出来上がった鉄を倭国に移入するためである。倭国は、韓人がつくった鉄を全面的に輸入していた訳ではないのだ。倭国内で必要な鉄を半島南部の弁辰に製鉄に行っていたのである。不弥国の物部氏族に鉄を供給したのは隣の宗像の海人であったのであろう。そして物部氏族を介して「台与の邪馬台国」は宗像氏とも交流を深め、宗像氏は鉄の移入だけでなく、饒速日の魏や西晋王朝への朝貢に積極的に働いたのであろう。狗奴国の本貫国である奴国の頭領の安曇氏の海人は、用いる事は出来なかったからである。

   豊前に遷都してきていた台与は、死後、遥か東方の河内・大和から偲ぶことが出来る国東半島付け根に立つ御許山(図11)の山頂の三つの岩(磐座)のうちの中央の巨磐を依代に葬られたとしたい。

大分県の御許山
図11. 大分県の御許山
前述した様に台与には、三人の義姉がいた。そのうちの多紀理姫は、出雲平定のため大國主と政略結婚し、下照姫をなしていた。これら三女神の多紀理毘売、市杵島比売、多岐津比売も死後、台与と同じ御許山の山頂の三つの磐座を依代に葬られたのであろう。後に秦氏により御許山山麓に宇佐神宮が建立された時、中殿(二之御殿)(図12)に台与が比売大神として祀られるとともに、三姉妹も重ねて祀られたとしたい。
八葉鈕座内行花文鏡 (平原1号墓 出土)
図12. 大分県の宇佐神宮中殿(二之御殿)
邪馬台国出身の三姉妹は、その後、宗像氏との縁で、多紀理毘売が沖ノ島の沖津宮(神体は青玉)、多岐都比売が宗像の辺津宮(神体は八咫鏡)、そして市寸島比売が中津宮(神体は紫玉)に遷幸して、いわゆる宗像三女神(それぞれ田心姫神、市杵島姫神、湍津姫神)になった。宗像氏は崇神天皇など狗奴国系王統の時代には活躍の伝承をもたないが、邪馬台国系王統の応神天皇の時代から中央政府との深い関係と活躍の記録が多くなるのも三女神との縁ゆえである。

   「台与の邪馬台国」の東遷時代は、狗奴国出身の邇邇藝から神武までの三世代が日向灘に臨む延岡平野から宮崎平野にかけて暮らしていたほぼ50年間にあたる。神武は軍舟団をしたてて東征し、本州島で邪馬台国(連合)の後裔と激しく抗争した後に大和に王権を樹立する。その後も狗奴国後裔と邪馬台国(連合)後裔は王権をめぐり抗争を繰り広げるのである。この論考については今後述べていきたい。

*大國主の国譲り後、葦原中国(本州島と四国島)に東遷した邪馬台国連合の権力者や卑弥呼の後裔の活躍は、『記紀』にほとんど記されていない。この時代については、考古資料をもって解明するしかない。では、なぜ無いのか? 東遷した邪馬台国連合の権力者や卑弥呼の後裔の支配地域があまりも広大で、猿女君が十分にカバーできなかったとも言えるが、邪馬台国の後裔の活躍が『記紀』編纂時に抹消されたともいえよう。抹殺したのは誰であるのか? 私は天武天皇としたい。理由は天武天皇紀で詳述する。

参考文献
  • 『邪馬台国の鏡』 奥野正男 新人物往来社 1982年
  • 『最新邪馬台国論争』 安本美典 産能大学出版部 1997年
  • 『三角縁神獣鏡は卑弥呼の鏡か』 安本美典 廣済堂 1998年
  • 『三角縁神獣鏡が映す大和王権』 宮﨑照雄 梓書院 2010年
  • 『戦後50年古代史発掘総まくり』 朝日新聞社 1996年
  • 「平原鏡から三角縁神獣鏡へ」 新井宏 Web
  • 「247年3月24日の日食について」相馬 充、上田暁俊、谷川清隆、安本
    美典 国立天文台報 第14巻 2012年
  • 「銅鐸出土地」 豊中歴史同好会 Web
  • 『古事記』(中)全訳注 次田真幸 講談社学術文庫
  • 『古事記』 原文 Web
  • 『本居宣長 古事記伝』 現代語訳付 雲の筏 Web
  • 『日本書紀』(一) 坂本太郎他校注 岩波文庫
  • 『現代語訳 先代旧事本紀』 ハンドルネーム大田別稲吉 Web
  • 『現代語訳 古語拾遺』 Web
  • 『古語拾遺』 資料篇(原文・書き下し文)Web
  • 『伊予國風土記』逸文『萬葉集註釋 卷第三』 国土としての始原
    史~風土記逸文 露草色の郷 Web
  • 『播磨國風土記』 ウィキペディア
  • 『三国志魏書』倭人伝 日中韓・三国通史 堀貞雄 Web
  • 『三国志魏書』馬韓伝 日中韓・三国通史 堀貞雄 Web
  • 『三国志魏書』弁辰伝 日中韓・三国通史 堀貞雄 Web
  • 『魏志韓伝』 塚田敬章 Web
  • 『晋書』倭人伝 日中韓・三国通史 堀貞雄 Web
  • 『宋書』倭国伝 日中韓・三国通史 堀貞雄 Web
  • 『梁書』倭国伝 日中韓・三国通史 堀貞雄 Web
  • 『梁職貢図』 ウィキペディア
  • 『通典』邊防東夷上・倭國 漢籍の書棚  ALEXの書斎 Web
  • 『新唐書』東夷伝日本国伝 日中韓・三国通史 堀貞雄 Web
  • 『三国史記』新羅本紀 日中韓・三国通史 堀貞雄 Web
  • 『三国史記』百済本紀 日中韓・三国通史 堀貞雄 Web